Workers K&T H MFG Co "Sliver Fleece Jacket, Beige"
スライバーフリース。糸になる原料の「スライバー」を巻きんでニットを作り、毛足の長い編み物を作る。
今回別注したフリース、目の細かい14 ゲージの編地に多めにスライバーを送り込んでずっしりしたフリースになって います。
これ以上送り込んで重くなると伸びてしまうギリギリ。せっかく別注するからには、単価よりクオリティだ!と 気合が入った企画・規格です。
一口に「フリース」といっても種類は多く、
・織物を起毛させたもの ・シンカーパイルと呼ばれる編地でもスライバーを巻き込んでいないもの、いろいろあります。今回作ってもらった工場さんも以前はスライバーフリース以外も作っていて、ファッション衣 料だけでなくスポーツ用、産業資材と色々作っていました。
スライバーフリースには最大の弱点?というか、特徴があります。とにかく「作るのに時間がかかる」。
まず原料のスラ イバーを作らないといけない。さらに編み機を見せてもらうと遅い!
スライバーを巻き込んで編み上げていくのであの程度しか速度が出ないのです。
材料も芯になる糸に毛足になるスライバーと多く必要。でもある意味、この弱点が強みとなって今も日本で作ることができています。
先ほど触れたスライバーフリース以外のフリース、量が作れる=安価に作れる、となると海外との競争が始まります。そういう競争とは別世界で、このスライバーフリースだけは淡々と日本製が残っているというお話でした。(もちろん、海外でスライバーフリースを作る工場もありますが、それはそれでもっと量が必要だったり条件が違うのです)
ファスナーを上まで閉じればスタンドカラー、開ければ自然なショールカラー風。チクチクしないのがフリースの良いところで、これが首回りに当たると暖かい。
どこかで見たような・・・カットソー工場ではなく、普段、アウターを縫っている工場で作っているのでオーバーロック+倒しステッチで縫製。これが、古いパイルジャケットの雰囲気を出すのに一役買ってます。
フロントのファスナー付けもシンプル。もっと見返しつけたりきれいに始末しようかと持ったのですが、やればやるほど、参考にしたオリジナルの持つ
「ラフなんだけど、機能としては十分」な雰囲気が消えてしまう。そこで、あえて縫製はオリジナルままのある意味、チープ、でも機能としてはOKな仕様。
フロント、ビスロンファスナー。60年代頃のアウトドアウェアというと、ビスロンが典型的です。滑りが良く、でも、後の年代のオール樹脂化したものとは違う独特の風合い。
腰・袖口はリブつき。脇には縫い目利用のポケット。
ここがこの製品の構造上弱い部分。カンヌキをまたいで、かつふり幅を広くしていますが、ギリギリまで切り込みが入っているので、ポケットに手を入れた後引っ張らないようにしてください。強く引っ張ると裂けやすい部分です。もし裂けた時は、手縫いでも良いので、カンヌキの周りを縫ってもらうと広がりません。
ここも仕様に悩んだ部分。俗に「めんこ」と呼ぶのですが、ファスナーの下端。ここをワにして裏のフリースを隠すとか、別布をつけるとかトライしてみたのですが、やはり、やればやるほどオリジナルからかけ離れて、厚みも出て不細工になる。「えいや!!」で参考にしたオリジナルと同じ仕様にしています。いつもきれいな始末のアウター縫ってる工場にしてもらうのは心苦しい仕様なのですが。
いつも、その工場とはミリタリーウェア見ていても話すのが
「機能はOK、形にはなってる、でもぐっちゃぐちゃ、無理やり系」という縫製仕様。せっかく、現代で新たに作るものなので、工夫で何とかなる部分は無理やりに成らないようにするのですが、それでもなお、無理やり縫わざるを得ないとか、そうした方がオリジナルのある意味チープ、でも素朴な風合いが出るとか。布が重ならないので重くならない・・・などなど、利用があればそういう無理やり系もたまにはやるよね・・・
というまとまりの無い話でした。この工場さんは、服が好き、仕様考えるのも一緒にやってくれるので、お互いこういう話ができるのです。
スライバーフリース製造工程・和歌山/原料の調合/ カード
スライバーフリースの、「スライバー」を作るための原料。左側がその「スライバー」で、右側が原料のポリエステルの原毛。原毛に複数の色を付け、混ぜる事で色調を出します。
大きな箱状のボックスにエアを使い吸い込み、混ぜていきます。この中で、白、茶色の原毛がぐるぐる混ぜられています。こういう作業の何が大変かというと、終わった後の掃除。モップが立てかけてますが、色物は、前の色が混ざらないように終わったら必ず掃除が要ります。この掃除は、大量のものをやろうと、少量だろうと同じ時間かかります。小ロットが高コストになるのは、この「変わらない時間かかる作業」を割る、母数が減るからです。
混ざりあった原料は、先ほどの箱から別室へ、これもエアダクトを使って送り込まれます。
糸を作るときは、綿、ウール、ポリエステル、どんな素材でも短繊維で あればカードと呼ばれる櫛を使って繊維の方向をそろえ、糸の原型である「スライバー」を作ります。
Tシャツの糸、
ジーンズの糸、どっちも似た機械が出てきます。
本来、このスライバーが何回も縒られたり(練条)したり、粗紡・精紡と糸になっていくのですが、「スライバーフリース」は糸作りの途中工程であるスライバー自体をニットに編みこんでしまうのが一番の特徴です。
出来上がったスライバーは袋にまとめられ、次の編みの工程へ・・・
編み立て
編み機の形状は、いわゆるT シャツやスウェットの生地を編むそれとほぼ同じような形。上から供給された糸が真ん中で筒状に編まれ、下に降りていきます。ただ、糸の供給方法が全く違い、編み機を囲むようにスライバーがセットされ送りこまれる。
さらに、芯になる糸は編み機の奥に白い糸が立っていて送りこまれて行きます。この芯になる糸に、スライバーを周りにまとわりつかせながら編み針で編んで いきます。
編み針も、おなじみの形状ですが編んだ向こう側にスライバーが毛足として出ているのがわかります。
編み上がった状態は筒になっていて、これを切り、平らな状態にしてこの後の仕上げ加工工程に入ります。一番右、編み上がったばかりの状態はふわふわ。まるで羊毛のよ うでもあり、でもベースは編み物なので羊毛とは違う伸びがある状態。ただ、この状態ではまだ、スライバーが簡単に抜け落ちてしまう状態です。
シャーリング・ブラシ・ポリッシャー・タンブラー、様々な仕上げ・風合い出し工程
余分なスライバーの毛を刈り込むシャーリング。
裏面に糊付けをしてスライバーが抜けないようにする工程。熱をかけているので、寒い時期には靄が出ます。
タンブラーでぐるぐる回して、余分な毛を落としつつ、毛のカーリング・丸みも出し、全体の風合いも柔らかくする
仕上げの工程は多種にわたり、その工程をある時は前後させ、ある時はある工程を複数回行い・・・と無限ともいえる組み合わせがあります。
具体的には毛を刈り込むシャーリング、裏面に糊をつけて生地を安定させる糊付け、遊び毛を取り除くブラシ、毛を熱で伸ばすポリッシャー、 パイルのボリューム出し・リラックスのタンブラー、生地の幅だし。
今回伺った日本ハイパイルさんはスライバー作りから編み、仕上げを一か所で一気貫通で行っています。そのため、コストさえ許せば仕上げはどのような組み合わせでもでき、多種多様な風合いを出すことができます。例えば、毛が丸まってほしい、そのツブの大きさはこのぐらいになってほしい、毛足の長さはこんな風に・・・日本ハイパイルさんは過 去に作った膨大な資料があるので、ある程度まで「この工程でこの風合い」と予測はできますが、それでも最後はやってみないとわからないのが今回の生地作りの面白さでした。
そんな工程を経て出来上がったスライバーフリース。表面を起毛させて作るフリースより毛足が長く、さまざまな風合いを作れる、でも高コスト&生産性が悪いのがウィークポイント。ただ、そのウィークポイントがあるからこそ、海外で生産するメリットが中々見いだせない。(結局、海外でやっても大量に安くは作れない)。だからこそ、国産が残った素材。
素材 ポリエステル100%・スライバーフリース
附属 ビスロンファスナー
縫製 総スパン糸
MADE IN JAPAN
M 身幅55.0cm 着丈69.0cm 裄丈89.0cm
L 身幅59.0cm 着丈70.0cm 裄丈90.0cm
Workers K&T H MFG Co.
岡山を拠点にし、主にアメリカ物ワークアイテムを紹介しているブランドです。
実際のアイテムを調べる事はもちろん、そのアイテムを作っていたメーカーや現存する建物にまで足を運び歴史を調べ上げてアイテムづくりのヒントにしています。
生地やパーツにこだわり抜いた商品ながら非常にコストパフォーマンスの高いアイテムが特徴です。